パンフレット | 高石ともや | 岡林信康 | 加藤和彦 | はしだのりひこ | 北山 修 | 西岡たかし | 高田 渡 | ジャックス
タイトル

これをお読みになる皆さまへ
これから出演者のプロフィールをご紹介いたしましょう。
何分にも乏しい財力にて調査したもので不備の点はお許し願うことにして
次の方々に感謝の意を表すとともにご協力を感謝いたします。
宮内庁御食事所
ドン・アフリカン航空
日本褌促進保存愛好会
老舗煎餅所嘘八百屋

挿し絵!
トモゴン公爵  彼の出生は定かではないが多分日本の北海道であろうと言われている。極度の悪食のため八重歯が出ている。容姿は熊に似ており夜な夜な出現するように人々に恐れられ、その時はなぜか女湯と男子用のトイレはからになり一世を風靡したトモゴン・ルックはある繊維メーカーがすでに製品化している。賞金が当局より出ており、今のところ百万近くたまっておりゴンドラが下らなければこのままハワイへ行けることであろう。
ヒーゲ・岡西  父がドイツ人、母が日本人の混血。父は第二次世界大戦の時に厩番をしており、ヒトラーの草履をふところで暖め、それ以来ヒトラーに可愛がられ髭の手入れをさしてもらっていた。それ故髭を大変愛し生れてきたヒーゲには早二才と少々にして口髭があった。母はその頃日本で宮内庁御髭所の御髭頭の役にあり、髭が縁でその後ヒーゲの父と結ばれる。それ故ヒーゲも髭に縁があり髭に関するものはすべて蒐集している。例えば聖徳太子の使った髭鋏や天下一印の髭染めなどがある。
ジン  ヒーゲの飼い犬。名犬の風情をもっているがむやみに人を噛む癖がある。たまには飼い主をも噛む。特にやわらかいものを好みトウフ、コンニャクなどを特に好む。
ハイフィールド  ジンの犬番。日本名を高田というが外国かぶれで自らハイフィールドと名乗る。特にアメリカ1940年代の歌曲が好きで年中口ずさんでいる。末は自衛隊に入ってヒコー機を操縦するのが夢であるらしい。
ノリオ  ヒーゲのおかかえ私立探偵。テレビの見過ぎでポケットに櫛を常時携帯しており、時折その櫛で、無い頭髪をかき上げる。そのC調さは天下一品でたくみに人に取り入りあまり敵はいない。物を買うときは必ず値切る癖があり、絶対に定価では買わない。その上生来のケチであり一回出した紅茶のパックは最低七回は使用する。
ヨッツアン・キダヤン・ヒロ・谷野氏  カマボコ長屋の住人。一日中四人そろって唄を口ずさんでおり、その楽曲の調べは他人の追従を許さないほどすさまじく天井のネズミをも失神させる程である。時折、長屋の住人達のために音楽会を開いてやり人々の人気の的である。使用楽器としては電気三味線、電気太棹、縦笛、桶太鼓などである。
ジョン  秘密諜報員。危険な任務に勇敢に立ち向かっていくのはテレビや映画の話で、彼ははなはだ情けなく跳び箱すらできない。訓練期間中にも訓練をさぼり近所のうどんやでタヌキそばなどを食べていた。実習期間中においてさえも、映画館にはいっては「ダブルОセブン」などを見て過ごしていた。それ故、彼の行動はイアン・フレミング氏に負うところが大である。
ミスター・О  ジョンの上司でQ課主任。前身は牧師と言われているが明確でない。それが何よりの証拠にはやがて手が出る足が出る。常に小言ばかり言っておりまたの名を小言幸兵衛。年中イスに座って♪くそくらえったら死んじまえ♪などとわけの分からない唄を歌っている。
キンタ  共産圏側諜報部のボス。ロシアから転属になったが本編にもある様にもとはロシア女学院の教師をしており、女生徒に手を出したことが見初められて諜報部には入り公金の使い過ぎにより日本に転属になった。日本では人目を欺くためにバナナ屋のおやじをしているが、下馬評ではその方が板についているとのことである。

1.プロローグ

 この世になぜ吸血鬼トモゴンが出現したかについては幾百もの異論がある。ある著名な学者(本人の希望によりとくに名を秘す。)などはトモゴンを生き長らえさしているのだと言っている。しかし巷のうわさではトモゴンはその月の15日が朝から満月でテレビで料理番組をやっており、しかもその料理が魚の料理の時だけ出現するのだと言われていました。しかしこのことはあまり信頼性がないというのが。本当でしたしかしこのトモゴンはもはや。伝説上の人物になろうとしていました世界中いたる所に出現するのでどこの国の怪物だろうなどと昼食時の話題にには事かきませんでした。
 さいわいにもトモゴンに会った人達に言わせるとトモゴンはかなりの伊達男らしくいつも衣装が違っているのでした。あるときは上から下まで黒で統一されており、頭にはホンブルグ帽をかぶり裏が真赤で表が真黒のケープを例のアルセーヌ・リュパン氏のごとく装っていたのでした。又、ある時は年がいもなく(本当の年齢は分からないので年がいもないかは疑わしい)黄色と赤の、巾は10センチもあろうかと思われる縞のシャツを着てジーンズをはいて現れたり、粋な着流しで現れたり、いま流行のヌードで現れたりと、とにかくかなりのダンディーぶりを発揮していたのです。
 顔の方はと言えばこれ又毎回顔が違っていたのです。ある人はかなりの優男であると言い、ある人はグループ・サウンズみたいだと言ったりしました。でも共通して言えることは八重歯がでていた事でした。
 さて、なぜこのトモゴンが世に騒がれるようになったかと言いますと、彼は世界各地から犬を奪ったのです。そして人間にはなんの危害も加えないのです。そして必ず犬を奪うという予告状を送り、犬を奪った後はその犬の飼い主のところにその犬の毛が13本と犬の奥歯2本が送られてくるのでした。それと共に次のような文句が書いてある丁重な礼状が届くのでした。
  拝啓、先日のご無礼の段お許し下さい。貴下より拝領の???(ここにはその犬の名前が入る)有難く頂戴いたしました。使い道につきましては何とぞお聞きになりませんように。
敬具   A・Z・トモゴン公爵
 つまりトモゴンは犬の蒐集家らしいのです。なぜ犬ばかり集めるのかは誰にも分かりませんでした。というのもはトモゴンに聞いた人が誰一人としていなかったからです。
 と言うようなわけで人々の間では犬の血を吸って生きているのであろうというような憶測がなされていました。この間などは犬を盗まれた婦人が路上で大騒ぎをしましたが結局、トモゴンのしわざではなかったのでした。その事件というのはある高名な上級階級の婦人が犬を散歩させていました。するとそのご婦人は人類特有の生理現象が起こったのです。つまりトイレに行きたくなったのです。それで通りすがった口髭をはやした紳士に少しの間、犬をもって居てもらったのです。そしてご婦人が戻ってくると犬とその紳士の姿がなかったのです。それで大騒ぎとなったのですが、後で調査の結果その紳士はいぬにも用を足させるために草地を探していたのです。 このようにトモゴンに関する話題は数限りなくあるのです。
挿し絵2
2. 戦慄のマシンガン

 ここにヒーゲ・西岡というドイツと日本の混血のプレイボーイが登場します。このヒーゲ先生、金のあるのに任せて贅沢の限りをつくしておりました。例えば、身に付けるものはといえば、下着から外套に至るまですべて外国に行って注文するというきちがい騒ぎ、しかし下着だけは日本製がよいらしくわざわざ越中の職人を呼び寄せ特別にオーダーしたと言う例のもの。そう越中といえばフンドシですな、を着用していました。
 この男のもとに一通の封書が舞い込んだのがそもそも事件の発端。文面はと言えば、かのトモゴン氏からの例のお犬様いただきの通知状。
 このヒーゲ氏、一匹の駄犬を飼っておりますがその名をジンと申します。ジンは何をどう取り違えたのか、かなり成長し過ぎましてちょっとした人間ぐらいの大きさがあります。年がら年中ねているようなつまらなーい犬でした。でもこのヒーゲ氏大変可愛がっておりました。
 この通知状にすっかり慌てたヒーゲ氏、お抱えの私立探偵ノリヲを呼んだのでした。ノリヲというのは全くしまらない野郎で、今まで捕らえたのはノミ一匹いないという探偵屋さん。かなりC調に取りつくろってヒーゲの私立探偵をやっています。
 今日もハナくそなどをほじっている所へヒーゲからの電話でいそいそとヒーゲ邱へと駆けつけたのです。
 「えー、どうもこんち結構なお天気で。」
 「おー、ノリヲか。まあおあがんな。」
 「へー、所で御用は何でげか?」
 「あー、他でもないんだが例のトモゴンの事なんだよ。お前さんも知っているだろ。そのトモゴン  がうちのジンを狙っているんだよ。それでお前さんに守ってもらおうと思うんでが、どうかね。」
 「へー、よござんす、ひきうけやした。」
 「なー、でもおまえさんどうする気だい。ここ当分うちのジンと一緒に暮らすかい。」
 「いやー、冗談いっちゃいけねえよ。わたしゃこうみえても人間ですからね。長屋の連中集めて  見張りまさ。」
 「それじゃあ、たのんだよ。」
 と言うようなわけでノリヲはそたこらと長屋へ帰っていきました。
ここは人呼んでカマボコ長屋。ご多分にもれず奇妙な連中がそろっています。銭湯の女湯に平気な顔で入っていくというヨッツアン、ラッパが吹きたいがためにとうふ屋になり、寝ているときもラッパを吹いているというキダヤン、サル回しでタイコの名人と言われ、それ故自分か猿か分からないヒロ、傘張りの浪人谷野氏、とまあこんな所が長屋の連中。今日も今日とて井戸端会議に花が咲く。
 ♪我らは長屋の四人組だホイ
  四人そろって一組さ
  カマボコ長屋の人気者
  明日のことは考えず
  今日だけオイラは暮らすんだ
  死ぬも生きるも金次第
  何かよい話ないものか
  カマボコ長屋の人気者
  ガラクタ横丁の人気者♪
 その時ノリヲが帰ってきて言うことにゃ、さの言うことにゃ。「おーい、みんなあつまっておくれ、仕事だ、仕事だ。うまい儲け口だぞー。」儲けの一言で皆ぞろぞろと集まって参ります。「かどのヒーゲのご隠居の所へみんな行っておくれ、そして犬のジンを守るんだ。どんな事があっても盗まれるじゃねえぞ。」「へえー」と一同くちをそろえてだだちにヒーゲ邱へと♪酒は涙かため息か♪を唄いながら向かったのでした。
 ♪我らどこへ行くゲバ棒持って
  戦争知らずにヘルメット
  我らがお舟はエンヤこら
  四人そろってエンヤこら
  四人そろってエンヤこら
  この世にひとたび生れれば
  ゲバ棒もたずにゃいられない
  オイラはカマボコ四人組
  オイラは長屋の四人組
  豚にもヘソがある様に
  カマボコにヘソはないものか
  ワニさん何故か可哀想
  トラさんもっとやさしくね
  カマボコ長屋の人気者
  ガラクタ横丁の人気者お♪
 ヒーゲの屋敷についた四人組は早速ヒーゲ氏に挨拶しようと中に入ったのです。
 「一個の桃を」とヨッツァン。
 「どうして。」とキダヤン。
 「四人で。」とヒロ。
 「食べられましょうか。」と谷野氏。
 「「四つに切っておたべよ。」
 ♪みかん箱にゃ38個
  それからおせんべ3枚と
  だのにオイラは桃一つ
  だけどオイラは食べるんだ♪
と桃を四人で食べ終わるとジンを守るために出ていきました。
 挿し絵3
 
3. 刺客とヘリコプター

 リージェンシー・ストリートにある自分のアパート。そのひろびろとみせかけた居間にジョンは腰をおろしていた。鼻をくすぐるようなミス・バルマンのコロンの香りの中でワイン・グラスをかたむけていた。中にはレイン・ヘッセンのドイツ・ワインがなみなみと満たされていた。茹で上がったばかりの緑色のアスパラガスにバターを少し溶かしたものをかけたのを口に入れるとグラスをかたむけた。このグリーン・アスパラガスというのは、茹でかたが難しいのでお湯が沸騰してかアスパラガスを入れてきっかり12分茹でてすばやく湯から上げ、塩を少しふりかける。この塩も食卓塩などはだめで純粋の塩が良い、特に瀬戸内海の塩水を煮詰めた塩が好い。そしてワインを飲みながらアスパラガスを食べ、またワインを飲みながらテレビのマンガ映画を見ていた。その時電話のべるがけたたましく鳴った。こんな時間に電話をかけてくるのは又彼の上司のミスター・Оに違いないと思った。彼は受話器を取り上げると言った。
「もしもし、ベルメル葬儀店でございます。」
「花環を二つおねがいしたいんだが。」
と電話の声はいつものように暗号をくり返すのだった。
「花はダンゴにいたしましょうか、それともシシにいたしましょうか。」とジョン。
「そうだな、アグラをかいているのにしてくれ。」と電話の主ミスター・Оは言った。
 彼はジョンの声を忘れているわけではないのだがこの暗号をくり返すことによって自ら酔っているのであった。まるでテレビの主人公のボスのように。
「何か又事件ですか。」
「すぐこっちへ来てくれ。」と電話の主は言って切れた。
 ジョンは熱いシャワーを浴び、あまり熱すぎたので少々胸に火傷をしたが、ルノマ製のトロピカルの濃紺のスーツを着て紺地に薄いイエローの水玉の模様のタイを締めた。それからアーモンド・グリコを一粒口にほおぼった。何の変哲もない黒の靴をはく。彼は妙にこの靴が気に入っていたので踵の辺りが少し減っていた。
 外に出ると夜風は肌に冷たく大変気持ちが良かった。こんな日まで仕事をしなければならないのかと思うと少し情けなく思ったりもした。でも彼は秘密諜報部員であることに誇りを感じていた。少なくとも自分は国家から給料をもらっているのでありそのためにかなり豪奢な生活も送れるのであった。彼は諜報部のQ課に属していた。このQ課というのは好きな時にどこのお志る粉屋へいって食べてもよいというライセンスを持っているのであった。
 ジョンは修理屋から帰ってきてまだ塗装が乾ききってないようなオクトン・マーチンDB3.5に乗り込んだ。その霊柩車みたいな黒に嫌気がさしてかなり悪趣味なピンクに塗り替えさせたのだった。
「待ちかねていたぞ。」
とミスター・Оの声がした。いつもの様に手で髪をなぜながら葉巻をくらしている。彼の前身はこの諜報部のX課にいた人間だ。X課というのは要するに葬儀一般を扱っているのだった。彼はそこで祝詞をあげていた。しかし人事異動でQ課にまわってきたのだった。ミスター・Оの部屋の中はいつも暑すぎるような感じがするなとジョンは思った。
「又、君の力を借りねばならんのだ。トモゴンというのを知っとるかね。奴は犬をすべて盗んでしまうという変態気味のやつでな、そいつが例のヒーゲ・岡西の犬を狙っているらしいんだ。君も承知のことと思うがあのヒーゲは共産圏側の諜報部の手先なんだよ。トモゴンが狙うからにはきっと何かあるはずだ。だから様子を探って欲しいのだ。例によって君の生命の保障は一切できんよ。」と冷酷に言い切った。
 ヒーゲの屋敷の手前でジョンはオストン・マーチンDB3.5を止め、アーモンド・グリコをほお張った。彼は緊張するとこのアーモンド・グリコを一粒食べるのであった。彼はここで一晩中たっていなければならぬのかと思うとまた、情けなくなった。
 ヒーゲの犬ジンは2DKのドッグ・ハウス(普通ケンネルというがヒーゲはこう呼んでいた。)ジンには犬番のハイフィールドという少年がついていた。このハイフィールドという男は少々頭がおかしく犬以外には全然興味を示さないのであった。朝起きるとまず自分より先に犬の歯を磨いてやり、夜は犬のそばで一緒に寝るのであった。このドッグ・ハウスはダダ広いヒーゲ邱の小高い丘の上にあり、そこを上がればヒーゲ邱を一目で見渡せた。

4. すてきなすてきなヨーコ

 麻布を十番の方に歩いていくと右側に一軒のバナナのたたき売りの屋台が目に入るだろう。ステテコにダボシャツ。それもアイヴィー・ストライプのステテコに細いフラワー・プリントのダボシャツ。そして頭には黒のエナメルのハンチングをかぶり、ちびた煙草をくわえながら商売気もなくただ座っているだけ。そのわりには一時間に三人ほど彼のバナナを買っていく。よく注意してみるとそのお客に類似点があるのに気づくはずだ。お客はすべて品物を選ぼうともせずにすぐ買っていくのだ。さらに不思議な事にはお客は皆二本の足で歩いていくのだった。
 このバナナのたたき売りの男実は共産圏側のスパイの親玉なのである。通称キンタと呼ばれるこの男はここで仲間と連絡をしているのだった。ロシアでは女学校の教師をしていたというキンタは女生徒に手を出し日本に送られたのだった。日本での彼の任務は日本における共産圏陣営の基盤を作るべしという極めて曖昧模糊としているのであったので彼は毎日をブラブラとバナナを売っているのであった。
 髪の毛をフサフサとのばしている男がバナナ屋の方に寄ってきて言った。
「このバナナはひょっとするとリンゴではありませんね。」
「そうです。良く分かりましたね。ですけど無果実でもありませんよ。」
 とバナナ屋のキンタ。
「きっと甘いでしょうね。」
「いや、そんなわけはありません。これはバナナですから。」
「それでもいいから三本下さい。」
「それでは一本おまけして四本にしましょう。」
「そうですか、それではついでに五本下さい。」
「じゃあめんどうだから全部上げましょう。」
とバナナ屋のキンタは全部のバナナを袋につめるとそれを髪の毛の長い男に渡すとさっさと店をしまっていってしまった。
 トモゴンからの予告を受け取ったヒーゲは早速キンタ親分に連絡したのだった。彼等共産圏側の人間にとってもトモゴンは謎につつまれており興味の対象にあった。
 キンタはヒーゲの家の門をくぐるたびにあのいやなメイドの顔を見るのかと思うといやな気分におそわれるのだった。メイドはさながら前世紀の貴物といった感じでいつもきまってキンタにお世辞を言うのであった。
「今日のお洋服の色はすごくおきれいですね。」とかいつもきまって鼻持ちならないことを言うのであった。しかし今日はどこをほめるのかと楽しみにしているのでもあった。
 ドアをあけるといつもの様な調子でメイドは言った。
「今日は涼しそうなお洋服でございますね。」
 当たり前だと彼は言ってやりたかった。何も好き好んでステテコにダボシャツを着ているのではない。そう言ってやりたかった。
「やー、キンタ先生、大変なことになりましてな。」
 と奥からヒーゲが出てきて言った。
「たかが犬一匹の事で大騒ぎか。」
「しかしあのジンは私の命から九番目に大事なものですからね。」
「それより例のジョンが今度の事で動き出しているらしいから気をつけろよ。」
「なに、あいつが!奴にはこの前の時もひどい目にあわせられましたからね。時に今度本国より人喰い亀を手に入れましてな。奴もその餌食に。」
「それはよい考えだ。」
 その時メイドがあわただしく駆けてきて、途中でつまづきころびながら入ってきて言った。
「ご主人様、大変でございます。ジンがいなくなりました。」
「なにっ!」
と言うなりその場に失神した。


5. 真赤なドレスの陰には

 それより少し前、庭ではカマボコ四人組がジンを取りまいて見張っていた。
 ♪今日も今日とてお犬様
  夜も早からおやすみよ
  我らは起きて見張ります
  どうか安心しておやすみよ
  ジンとハイフィールドが寝しずまったのを見ると四人は庭の方へとちりじりに散っていった。
 その頃ジョンは表でうろうろしていた。中に入るには屏から入るしかないのだが、この屏の乗り越えは彼の一番の苦手であった。それでもどうにか屏に登りつき下へ飛びおりた。しかし運悪く見回りをしていた四人組の上へ落ちてしまった。たちまち捕らえられてしまった。
 ♪天からキリンが降ってくりゃ
  はぐれはぐれて浜千鳥
  おぼろ月夜に男泣き
  沖の暗さは身にしみる
  あなたと二人旅すれば
  鯨も一緒に夢の中
  海の蝶々も夢の中
  下からキリンがわいてくる
 キンタとヒーゲの所へ連れていかれたジョンはここでアーモンド・グリコを食べたいと思った。
 「これはこれはジョン君。ようこそヒーゲ邸にお越しを。ゆっくりとおもてさしていただきましょうか。」
とヒーゲは憎たらしげに言った。
 「幸い君のために本国より人食い亀をとりよせてあるんだよ。では諸君お連れしろ。」
 とカマボコ四人組に言った。
 ジョンは数々の拷問にはなれっこにはなっていたが亀というのは初めてだった。一行は屋敷を出るとドッグ・ハウスとは反対側のくぼ地になっている方へとジョンを連れていった。かすかな明かりで見えるその建物はおよそ殺風景な建物であった。丁度博物館のような感じであった。室内には調度品は何もなく四方の壁には窓すらなかった。そのだだっ広い部屋には一つの水槽みたいなものがでんとすえられていあ。様子が片側についており裸電球で照らし出されて一そう不気味さを増していた。
 ♪さあさあお風呂に入りましょう
 亀と一緒に入りましょう
  耳の穴までよく洗い
  手足もすっか りなくしましょう
 ジョンは水槽の中でじっと動かずにいた。しかし足もとでは何かがこそこそ動くのを感じていた。暗やみに目がなれると二十センチ位の亀が数十匹いるのが見えた。ヒーゲは人食い亀田と言っていたがこの亀が本当に人を食うのが信じられないでいた。その時天井の方から声が聞こえた。
 「おこまりのようですですなミスター・ジョン。」
 「君は誰だ。何者だ。」
 「はっはっはー。私はトモゴン、A・Z・トモゴンだ。」
 「あなたが有名なトモゴン公爵ですか?なんでこんな所に。」
 「そんな事はどうでも良い。君は助かりたくないのかね。どうだ。」
 「あなたが私を助ける?なぜ?」
 「取り引きだよ、取引。君を助けたら犬を十三匹欲しいのだ。十三匹。」
 「なんでまた犬なんか集めているのです。」
 「そんなことはどうでも良い。きみはたすかりたくないのかね。」
 「そりゃあ助かりたいですよ。でも、」
 「デモもストもないっ!助かりたければ犬を十三匹よこしたまえ。」
 「わかりました差し上げますよ。とに角助けて下さい。」
 トモゴン公爵は天井から一本の綱を下した。何故彼がてんじょうにいるのかジョンには分からなかったがとにかく綱につかまった。これでジョンは外へでられたわけであった。

挿し絵4

  6. 恐るべき時限爆弾

 「何故、あなたは犬ばかりあつめているのです?」とジョンはスラックスの裾を手で絞りながら言った。
 「いやだわ。ただあたしは犬が好きなだけなのよ。」とトモゴン公爵は妙に女らしく言った。ジョンはトモゴン公爵の顔を見るとどことなく女らしいのに気づいた。
 「あなたは男ではないのですか?」
 「まあー、ご冗談ばかりおっしゃって、あたしは女ですわよ。」
ここでジョンはハレホレとずっこけた。丁度あのテレビの「あぶく玉ホリデー」で出演者がずっこけるように。
 ここは竜宮城であります。亀さんにつれられた浦島太郎がただ今竜宮城へついたところです。竜宮城はうわさどおりの所ではなくかなりきたない所でございます。浦島がやってくるのを見っつけた乙姫様は早速現れまして申します。
 「これは、これは我がいとしのウーさん。ようこそ竜宮城へお越しを。」
何故かこの浦島、例のキンタによく似ております。乙姫様にこう言われてヤニさがっております。
 「まあーっ、いやだわ。」
 「本当に動物にたとえるなら蜘蛛みたい。」
 「あらーっ、いやだわ。」
 「頭から食べてしまいたみたいですね。」
 「じゃあお食べになって下さい。」
この言葉を聞くと浦島は頭から食べてしまいました。そして種子を吐き出しました。そしてその種子が地面の上に落ちるとそこから芽が出てきました。その芽はみるみるうちに大きくなって空に向かって伸びていきました。浦島はそれをつたって上の方に登っていきました。どんどんどんどん登っていきました。どんどん登っていくと門が見えて来ました。その門のそばには例のカマボコ四人組がたっていたのです。
 ♪さあさあおつきだお出迎え
  お茶もだしましょ
  お花も出しましょ
  どうぞゆっくりおくつろぎ
と唄いながら浦島のそばに行き門の中へと連れて行くのでした。
 眠りからさめたキンタはあたりを見回してハッとしました。そこにはジョンと見知らぬ女が立っていたのです。
 「こちらはトモゴン嬢。」
 とジョンが紹介した。
 「トモゴン嬢?」
 「そう、トモゴン公爵は実は女性だったんだよ。」
 「しかし何故犬なんか集めているんだ。」
 「それは私からお話ししますわ。私は犬がとっても好きなんですの。それでかわいい犬を見るとついいただきたくなりますの。昔から騒がれているのは私の父なんです。代々トモゴン家は犬好きなんですの。ヒーゲ氏のジンは手下が連れていきましたわ。おかげで私の家は犬だらけですの。」
 「それではキンタ先生一緒に来てもらいましょうか。やっと捕まえることができたよ。」とジョンが言った。その時背後からヒーゲの声が聞こえた。
 「銃を捨てたまえ!ミスター・ジョン。」
その声が聞こえるやいなやジョンはヒーゲめがけて突進した。ジョンの肩がヒーゲの手にあたりヒーゲの銃は床に落ちた。慌ててキンタが拾おうとしたがジョンはそれを蹴とばした。背後からキンタが組みついてきた。それをかわすとヒーゲの顔面に一発食らわせておいてからキンタにも蹴りを一発。何しろめちゃくちゃの取っ組み合いが展開された。最初はハデにやっていたジョンもそのうちに力つき、頭にひーげの頭突きを食らってそれっきりそこにのびてしまった。

7. エピローグ

 諜報部内の病室で目をさましたジョンはまだ頭がづきづきと痛んだ。しかし、目の前にあの陰険なミスター・Oの顔だけははっきりと見えた。
 「また、君はこの病室に帰ってきたな。」
 「いや、その、実は、」
 「言い訳はよせ。君はいつもここに戻ってくるな。」よほどここが好きと見えるな。君を助けてくれたのはあのトモゴン嬢だよ。キンタとヒーゲはまた逃がしたね。」
そういい終わると彼は出ていった。ジョンはもうこんな任務はこりごりだといつも思うのだった。しかしいつの間にかこうなって病室へ来るのだったしかしもう今度こそはやめようと思った。あのミスて・トモゴンさえいてくれたら、あのミス・トモゴンさえ…。                     完 

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